第2回 表計算ソフトの活用

パデュー大学 外国語外国文学科 外国語教育メディアセンター長

畑佐一味


表計算ソフトで何ができるのか

今月は表計算ソフト(spread sheet)と呼ばれるソフトの活用方法を紹介します。表計算という名前からも分かるように、このソフトは縦横に並んだ数字の計算をすることが得意です。会計処理等の金銭のやり取りに関する事務処理をはじめ様々な計算にてきしているのでビジネスソフトとしては欠かせない大きな柱の一つです。計算が得意という意味では、コンピュータ(つまり電子計算機)の一番おおもとになる機能を継承していると言えるでしょう。ソフトの種類も多く、解説書もたくさん出版されています。今回はマイクロソフト社のエクセルというプログラムを例に使って説明していきますが、ほかのプログラムも画面の構成は似ていますし、機能的にもほとんど同様のことが出きるはずです。ですから、基本的な概念を理解すれば、後は操作上の違いを覚えるだけですから、怖がらずに、積極的に挑戦してみてください。

では、ユーザの、つまり日本語の教師の視点から表計算ソフトを見てみましょう。そして、どのような使い方があるか考えてみましょう。我々にとっての計算の必要性というと、テストの点数、宿題の点数又は提出記録、出欠席の記録、点数の集計、成績計算などがまず頭に浮かぶでしょう。また、その数値を基にして、学生の順番を並べ変えたり、過去の学生の成績と比較し学生グループの比較をしたり、授業やカリキュラム自体の評価をしたりすることも考えられます。さらに、プレースメントテスト(クラス分けテスト)のように定期的に行なわれるテストの結果も記録して比較することができます。この場合、問題ごとの回答記録をとっておけば設問自体の善し悪しの分析 (item analysis)にも使えます。この外にも利用方法はいくらでもあり、皆さんがそれぞれの現場、立場のニーズから考えつくこともあるでしょうから、「こんなことができるかなあ」という考えを頭の片隅におきつつ読み進んでください。

今回は授業と成績管理を例にとって表計算ソフトの基本を紹介します。従来、我々はテストの結果や出欠席を帳面にその都度記入することで記録をとり、学期末に計算をして成績をだすという手順で授業記録と成績管理を行なってきました。それをある程度時間をかけ、ソフトの使い方を習ってでもコンピュータを使ってやってみようというわけですから、それなりのみかえりがなければなりません。つまり、表計算ソフトを使うことで、効率がよくなり、今までやりたくてもできなかったことが可能にならなければいけません。それでは、それはどんなことでしょうか。下に、いくつか代表的なものをあげておきます。

  1. 表計算シートの中に計算式を組み込むことができるので、学期末に計算をする必要がほとんどない。従って、計算間違いがなくなる。
  2. 表計算シートは一度作れば、繰り返し使える。
  3. 成績基準に変更がでても、短時間で計算を訂正できる。
  4. テストの採点違いがあったときなどの訂正が簡単。
  5. 学期末にならなくても、つねに途中経過が自動的に計算されているので、学生に個人別の学習状況の中間報告が(余計な時間をかけないで)いつでも与えられる。
  6. 学期末に学生からくる文句を減らすことができる。(例 「僕の成績はもっといいはずです。」これは成績に敏感な(米国の)大学生では現実によく起こります。)
  7. 学生を成績順に並べかえたり、平均点の計算等、個人またはグループをいろいろな観点から分析できる。
  8. 複数のグループ間での比較が可能になる。(それは過去のグループとの比較かもしれませんし、現在のグループ同志かもしれません。)

このようなことを実現させるのには、当然表計算ソフトの概念を理解し、その使い方を覚えることが必要ですが、それは膨大な時間がかかる大変なことではありません。また、記録が「えんま帳」のように目に見える形で残っていないとか、消えてしまうのではないかといった不安感は、「大切な記録はバックアップをかならず作る」といった基本操作を習慣化することで解消できます。

成績を打ち込んでみる

それでは、例を使って紹介していきましょう。、図1はまだ何も数値が入っていない表計算シートです。縦横に線がはいっていて、枡目があります。左側に数字が1から順番にならんでいて、上にはアルファベットがAから順番に並んでいます。画面のはじではGぐらいまでしか見えていませんが、実はずっと続いていて、Zまでいくとその次はAA AB ACというぐあいになっています。もちろん、表計算シートは下にも続いています。つまり、表計算シートは大きな一枚の紙のようなものでコンピュータの画面はその一部をのぞくための窓なのです。ですから、その窓を動かして(「スクロールする」と言います)、はみ出している部分を見ます。(同様に、ワープロの文書は長い巻き紙のようなものと考えると、分かりやすいでしょう。)縦横の線が交差して作りだすそれぞれの枡目を「セル」(cell)と言います。このセルの中に、もちろん数字が入るわけですが、そのほかにも、学生の名前などの文字情報や計算式を入れることができます。そして、上に並んだアルファベットと左側の数字の組み合わせでそれぞれのセルを特定します。例えば、A1というセルは一番左上のセルを指し、その右隣はB1、下はA2となります。

          図1 エクセルの表計算シート(worksheet)

では、ここで語学教育の成績管理の特徴について考えてみましょう。顕著なのは、語学の授業はほかの教科の授業より記録することがらが格段に多いことです。これは一学期の中で中間試験、期末試験といった大きなテストに加え、語彙や漢字の小テストなどが頻繁に行なわれること、宿題や作文のような提出物が多いこと、出欠席記録を毎回つける、さらに単なる出欠席記録ではなくその都度の学生のパーフォーマンスを評定し記録することもあるなどの理由が考えられます。あるクラスの成績管理をするための表計算シートを作ろうとする場合、(一つの例として)まず左側の列(A列)に学生の名前をいれて、右に向けて記録事項を一つずつ入れていき、その後に、集計のための列を設けて、どの項目が全体の何%といった換算結果や最終的な成績をいれる列をつくることにしたとします。各列ごとの記録事項にも何か名前を付けておかないと、分からなくなってしまいますからそれを一番うえの行(1行目)に作ります。記録事項が多いわけですから、このシートは画面の右側にはみ出した横長のものになることがわかります。こうして、学生の名前と記録事項をタイプすると図2のようなものができます。

          図2 名前と記録事項が入った表計算シート

このようにして準備したシートに数字を入れていくわけですが、このやり方だといくつか問題があることに気づくと思います。教師が一番見たいテストの平均点や出欠席の合計などの中間集計結果やそれらをさらに集計して最終的な計算結果を入れる列がシートの右端にいってしまい、いちいちスクロールしなくてはならず不便です。これを解決するために、まず、集計結果を入れる列を名前のすぐ隣に作って、その後に個々のテストの点数や出欠席の記録を入れる列を作ります。(図3参照) このようにして準備したシートに数字を入れていくわけですが、このやり方だといくつか問題があることに気づくと思います。教師が一番見たいテストの平均点や出欠席の合計などの中間集計結果やそれらをさらに集計して最終的な計算結果を入れる列がシートの右端にいってしまい、いちいちスクロールしなくてはならず不便です。これを解決するために、まず、集計結果を入れる列を名前のすぐ隣に作って、その後に個々のテストの点数や出欠席の記録を入れる列を作ります。(図3参照)

          図3 集計結果を始めに設けた表計算シート

数値の見え方を工夫する

ところが、これではいざ点数を入れようとして、右にスクロールすると左側の名前が逆にはみ出して見えなくなってしまいどの学生の点数を記入するのか分からなくなってしまいます。そこで、画面分割機能(split windows)を使い、図4のようにします。この状態はひとつの窓を四つに区切ってあります、そしてそれぞれの部分を別々にスクロールすることができます。ですから、右下の一番大きい部分にデータを記入していく時どこにスクロールしても、左側の名前の部分は動きません。そして、上の項目の名前の部分は一緒にスクロールします。これはとても基本的な機能なのですが、大変便利です。

          図4 画面分割機能を使った表計算シート

これで、点数の記入が自由にできるようになりましたから、いよいよ計算部分を作ってみましょう。まず始めに大切なことは自分の成績基準をはっきり知っておくことです。一学期を通して、どのようなテストを何度するか、それは何点満点のテストで、最終的な成績に対する比重は何%にするのかといったことを各項目にわたりすべて決めておく必要があります。これがしっかりできていないと、計算部分をせっかく作ってもあまり意味がありません。(米国の大学ではほとんど必ずと言っていいほど各学期の始めに学生にこのような情報を与えるのが慣例となっています。)今回の例では簡略化して下のような配分にしました。

                  	回数  全体に対する比重

  単語テスト    10点満点   3    15%
  宿題       10点満点   2    15%
  作文       10点満点   2    10%
  出席                    10%
  中間試験    100点満点   1    20%
  期末試験    100点満点   1    30%
                     合計	100%

  成績基準  100 - 90% A  89- 80% B  79 - 70% C  69 - 60% D  59%-  F

図3と4をよく見てください。B列は単語テストの平均点、C列は宿題、D列は作文といったぐあいになっています。B列は単語テストの平均点ですから、B2(ケネディさんの点数)にはK2、L2、M2に入っている値の平均が計算されて入れられなければなりません。エクセルではこれを =(K2+L2+M2)/3とか又はもっと簡単に=AVERAGE(K2:M2)と表現します。そして、この数式をB2のセルにタイプします。数式の始めの等号(=)は「このセルの中身は数式ですよ」という意味です。=(K2+L2+M2)/3は「K2とL2とM2を足して、それを3で割りなさい」と言っていますね。ただこれですと、セルの数が増えるに従って、数式もどんどん長くなってしまいます。そこで、二つ目の表現はエクセルのAVERAGEという関数を使うと、「K2からM2までの間にある数値の平均値を計算しなさい」となり、セルの数が増えても数式は長くなりません。同様にして、ほかの項目の数式を作ります。では、出席はどうでしょうか。図4では出席は1、欠席は0と記録してあります。ですから、例えばR2からAR2(授業の最終日)までのセルの値を合計すれば出席回数が計算できます。エクセルではこれを=SUM(R2:AR2)と表します。これは「R2からAR2までの値を合計しなさい」という意味です。

表の計算機能を応用する

さて、それでは上の計算値(B列からG列)を基にして、合計(H列)を計算してみましょう。合計が単純に各項目を足すだけなら=B2+C2+D2+E2+F2+G2という数式をH2にいれてやればいいのですが、単語テストのように10点満点のテストの平均点を成績の15%に換算しなければならなり項目があります。この場合の数式はB2/10*15となります。または、単純にB2*1.5としても同じことです。(/は割り算を、*は掛け算を表します。)宿題も同様の換算が必要です。そして、中間試験はF2*0.2という数式を使って100点を20%に、期末試験はG2*0.3という数式を使って100点を30%にそれぞれ換算します。出席は、例えば全出席数が50だった場合、E2/50で出席率が計算され、それに10を掛ければ成績の10%に換算できますから、数式はE2/50*10またはE2*0.2となります。作文は換算の必要がありません。ですから、合計を計算するための数式は=(B2*1.5)+(C2*1.5)+D2+(E2*0.2)+(F2*0.2)+(G2*0.3)となります。

最後に、ABCDFの成績を合計点に応じて自動的にだせるようにしてみましょう。これはH2の値によって、I2に違った文字を入れたいわけですから、今までの計算とは少し違いますね。エクセルではこれをIFという関数を使ってできるようにしてあります。例えば、=IF(H2>=90,"A","B")とすると、「H2の値が90以上だったら、文字のAを入れなさい、そうでないときは、文字のBを入れなさい。」という条件を作ることができます。ところが、これだと90未満の場合はすべて成績がBになってしまい具合が悪いですね。そこで、少しややこしくなりますが、こんなことができます。

=IF(H2>=90,"A",IF(H2>=80,"B","C"))

もともとの"B"の部分にもう一つ新しいIFの条件を埋め込んだのです。こうすると、90未満80以上ではB、それより小さければCになります。これを、もう二段階続けるとFまで成績を計算することができることになります。ですからI2に入れる関数は次のようになります。

=IF(H2>=90,"A",IF(H2>=80,"B",IF(H2>=70,"C",IF(H2>=60,"D","F"))))

一見わかりづらいようですが、同じことの繰り返しです。最後の括弧の数だけ間違えないようにすれば、そんなに難しくありません。これで計算部分は全部できたわけですが、ここまではケネディさん一人の計算しかできませんから、今作った数式をほかの学生のセルにコピーします。この時、エクセルは数式のなかの行を自動的に調整しますので、ただコピーするだけで正しい数式が各学生の行に作られます。

これで成績管理用の表計算シートができました。今回紹介シートは簡略化してありますが、必要な項目を盛り込むための基本はだいたい含んでいますから、是非試してください。あまり時間をかけずに作れるはずです。



<今回使用したソフトウェア>
Excel 5.0  Microsoft Corporation.

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