第3回 ワープロソフトの便利な使い方

パデュー大学 外国語外国文学科 外国語教育メディアセンター長

畑佐一味


今月はワープロソフトを取り上げます。ワープロソフトはワープロ専用機とともに多くの方にすでに広く利用されているので、その基本機能を紹介するのはあまり意味がないと思われます。そこで、今回は、筆者の経験から、案外うまく使われていないと思われるマージンとタブの活用とスタイルシート(段落書式登録)という二つの機能を取り上げてみることにしました。(ただし、この他に特定の項目について知りたいというリクエストがあれば、編集部にご連絡ください。多かったものに関しては後ほど改めて取り上げたいと思います。)その後で、ワープロソフトと併用すると便利なものとして、CD-ROMと電子ブック、そしてAutoGloss/J(パデュー大学で開発したフリーウェア)という単語リスト作成支援プログラムを紹介します。 ワープロソフトは前回の表計算シートも含め本連載でこれから紹介していく色々な種類のソフトが作り出すファイル(例 文書や絵など)の受け口に使われることが多いので、幅広い使い方を知っておくと今まで以上の力を発揮します。

マージンとタブの活用

マージンには右マージンと左マージンがあり、通常は文書全体の両端を決めています。しかし、テストの中の読解文や設問のリストなどのように、マージンを少し内側に動かしたいことがあります。また、設問が二行に渡るときは、二行目の先頭を一行目の問題の左端に揃えたほうがきれいです。このような場合には、行の始めにスペースを打ったり一行目の最後にリターンを打ったりせずに、その段落のマージンとタブの位置を変えるのが上手なやり方です。そもそもスペース自体の幅はフォントの種類やサイズによってまちまちですから、行を揃える目的で使うには適当ではありません。 では、例を使ってやり方を紹介していきましょう。

          例1 テストの一部

例1はテストの一部を抜粋したものです。この例のなかでは、1.1から1.4のようにおのおの違った書式を持った段落を用意しました。まず、例1.1は段落が問題の順序をしめすアルファベットで始まって、問題文が二行に渡っている場合です。EgWordでは図1のようにします。(図の中の $はタブキーを、そして %はリターンを表しています。)

          図1 問題文の段落書式

矢印1はこの段落の(二行目以降の)左マージンで、矢印2は一行目の左マージンの位置を設定しています。この二つを動かすことで、マージンの位置を自由に変えることができるわけです。一行目でアルファベットの後にタブキーをうつと、自動的に左マージンの位置まで飛びます。ですから、問題文の左端はフォントやサイズに関係なく常に揃います。  次に、例1.2を見てみましょう。ここでは左右のマージンが狭くなっていて、段落の始めは一文字分あいています。(図2参照)左マージンは一行目もそれ以降も同じ位置に動かしてあります。(矢印1と2)さらに、右マージン(矢印3)の位置も内側に動かしてあります。こうすれば各行の終わりでリターンを打つ必要はなくなります。段落の始めは一文字分ですから、タブキーではなくスペースを一つ打ちます。

          図2 読解文の段落書式

 では、例1.3です。ここでは設問の数が10以上あるときに、設問の番号の桁をそろえ、かつ設問自体の左端を揃えたい場合を想定しました。(図3参照)段落の始めで、数字の桁揃えをすることは、左マージンではできません。ですから、一行目のマージン(矢印2)は動かしません。その代わりに、桁揃えをしたいところにデシマルタブ(小数点タブ)を設定します。(矢印3と4参照)注1  左そろえタブが文字の左側をそろえるのに対し、デシマルタブは縦に並んだ数字の右端をそろえる時に使うタブです。そして、左マージン(矢印1)を設問の左端の位置に動かします。こうしておいて設問をタイプするときは、まずタブキーを打って、数字、小数点、そしてもう一度タブキーを打ち、その後で、設問自体をタイプします。

          図3 設問の段落書式

最後に答えを書き込むための下線も一行目の左マージン(矢印1)と左そろえタブ(矢印2)を使ってすっきり作れます。図4のようにすれば、タブキーを一度打つだけで長い下線が引けます。

          図4 回答用下線の段落書式

スタイルシートの活用

 このようにして、せっかく作った段落の書式も、そのままでは繰り返し使うことができません。そこで、スタイルシート(または、段落書式登録機能)を使うと、同じ文書の中だけでなく新しい文書を作るときにも段落書式が繰り返し使えるようになります。では、上の例で使った1.1から1.4までの書式を登録してみましょう。EgWordでは次のようにします。

  1. 登録したい書式を持った段落のどこかを一度クリックします。
  2. 書式メニューからスタイルシートという項目を選びます。
  3. スタイル名の欄に新しいスタイルの名前をタイプします。(例 問題文、読解文、設問、回答用下線など)
  4. 1から3を繰り返し、各段落の書式を登録します。

図5にあるように登録された書式はツールバーから直接選べるようになります。また、ここでは使いませんでしたが、スタイルシートでは段落全体のフォントやそのサイズを決めることもできます。

          図5 スタイルシート

新しい文書にすでに登録済みのスタイルシートを動かすには、書式メニューからスタイルシートを選んで、その中の「読み込み」というボタンをクリックします。そこでスタイルシートが入っている文書を選ぶと、新しい文書にスタイルシートがすべて自動的に読み込まれます。

 最後にもう一つスタイルシートの重要な機能を説明します。文書を作ったのですが、後で何らかの理由で特定の段落の書式(例えば、問題文の書式部分)を変えなければならなくなったとします。問題文は文書内に散在していますから、一つ一つ変更していくのは効率的ではありません。この場合に段落書式がスタイルシートを使って設定されていれば、そのスタイルシートの内容を変更することで、対象になっている段落すべての書式を同時に変更することができます。つまり、一つ直すだけで全部直せるわけです。

 スタイルシートは始めは少し時間がかかって一見面倒に感じられるかもしれませんが、テストのように繰り返し作る必要がある文書で、しかもその形式を一定に保ちたいものにはとても効果的な機能ですから、是非試してみてください。

CD-ROMと電子ブック(EB)の活用

 ワープロソフトと併用すると威力を発揮するものの例を三つ紹介します。始めはマック広辞苑というCD-ROMを例にとります。これは皆さんもご存じの広辞苑が丸ごとCD-ROMに入ったもので、絵、図表、音なども入っています。文書作成中に辞書が必要なとき、このプログラムがあれば分厚い辞書を机の上に置いておく必要がなくなります。また、CD-ROMを使うと印刷物では不可能だった検索機能が使えたり、「また引き」も極く簡単に行なえるようになるなどの利点があります。この他にも、百科事典など色々なCD-ROMが販売されていますので、探してみてください。

          図6 マック広辞苑

CD-ROMの中に電子ブック(EB)と呼ばれる種類のものがあります。これはもともと「電子ブックプレーヤ」(例 SONY のData DiscMan)と呼ばれる専用の機械用に作られたものですが、Sentius社のEB PlayerやフリーウェアのSyokendaiというプログラムを使うと、マッキントッシュでも読めます。電子ブックは一般のCD-ROMより値段が安く、しかも数多く色々な種類のものが出版されているので利用価値はかなり高いと思われます。図7は研究社の英和・和英辞典の例です。この他にも科学技術用語辞典、経済用語辞典、各種英和・和英辞典、そしてもちろん、広辞苑や大辞林などの国語辞典も電子ブック版があります。

          図7 研究社英和・和英辞典(電子ブック版)

単語リスト作成支援ソフト AutoGloss/J

 最後に単語リストの作成を支援するために設計されたソフトのAutoGloss/Jを紹介します。このソフトは私達がパデュー大学で開発したもので、インターネットを通じて無料で入手できるフリーウェアです。

 教師が新聞や雑誌の記事を使って読解教材を作ろうとした場合、単語のリストが必要になることがよくあります。従来は単語一つ一つを漢字書きとかな書きで別々にタイプし、その意味を(この場合は英語で)調べながらタイプしていくというのが一般的なやり方でした。ワープロソフトや電子ブックの和英辞典などを利用すれば印刷物の辞書を使うより、かなり効率的に行なえますが、それでも一つ一つ処理するため手間のかかる作業にはかわりありません。しかも、スペリングミスの可能性が日本語でも英語でも存在します。AutoGloss/Jはこの作業を半自動化するするために開発されたソフトです。

 AutoGloss/Jを開くと図8のような画面が現れます。画面左側の空欄は今は気にしないでください。(この欄については後ほどインターネットの紹介をする時に改めて説明します。)ここでユーザはまず対象になる読み物(ここでは、自衛隊の平和維持活動参加に関する新聞記事を想定してみました。)の中からリストに載せるべき単語を選びます。そして、その単語リストを漢字書きでMy listの欄にタイプしていきます。(図8)終わったら画面の下にある「Create glossary」というボタンをクリックします。

          図8 AutoGloss/J : リストのタイプ終了時

そうすると、プログラムは自動的に単語の読み方と英語の意味を探して図9のようなリストを作ります。

          図9 AutoGloss/J: 単語リスト自動生成

AutoGloss/Jが使っている辞書にない単語には「*not found here*」というメッセージが付けられます。「安全保障理事会常任理事国」などのような造語は見つかりませんでしたが、区切れば見つかる可能性があります。その場合は、図8のリストを調整して作り直すこともできます。また、ここでは英語の意味の中に文脈上不適当なものも入っていますが、それは後で取り除きます。

 単語リストができたら、「Create vocabulary file」というボタンをクリックし、リストに適当な名前を付けて、文書として保存します。そして、AutoGloss/Jを終了(Quit)します。

 次にワープロソフトを開いて、今保存した単語リストの文書を開きます。(図10)AutoGloss/Jで保存した文書はテキスト形式(Text Format)と呼ばれるどんなワープロソフトでも読み込み可能な形式になっています。そして、漢字、かな、意味の各項目の区切りにはすでにタブキーが挿入されていますから、文書全体を選択(ハイライト)してマージンとタブを図11のように設定するときれいなリストができます。

          図10 リストをワープロソフトに読み込む

          図11 リストの仕上げ

最後に、不必要な意味を取り除いたり、足らない意味を補うといった作業をしてリストを仕上げます。今までより、短時間に単語リストを作ることができますから、生教材の利用がより身近なものになります。注2

 今回はワープロソフトを中心に紹介しました。今のワープロソフトには多くの機能が盛り込まれていて、すべての機能を使いこなすことはほとんど不可能です。その中から我々にとって必要な機能を見つけ、その力を最大限に利用するのが上手な使い方と言えるでしょう。また、後半で紹介したように、これからはワープロソフトを他のプログラムと併用する機会が多くなります。そしてそれができるようになると、コンピュータの活用の幅が広がり、コンピュータを「使っている」という実感がつかめるはずです。そのためには、現在の使い方に満足するのではなく、すこし冒険心をもって時間の投資をしてみてください。では、次回は「絵・グラフィックス」について紹介します。もちろん、ワープロソフトもまた出てきます。



注1  タブは通常左そろえタブ、センタータブ、デシマルタブ、右そろえタブの四種類があり、左そろえタブが一番よく使われます。

注2   AutoGloss/Jの入手方法をごく簡単に書きます。(詳しくはインターネットの紹介の時に説明します。)AutoGloss/Jは匿名FTPで入手できます。住所はintersc.tsukuba.ac.jpで、/pub/AutoGloss/のサブディレクトリに入ってください。また、WWW経由でも入手できます。この場合は、http://www.sla.purdue.edu/fll/JapanProj/というページを見てください。


<今月紹介したソフトウェア>
EgWord(エルゴソフト)
マック広辞苑第四版(岩波書店、Ayumi Software)
新英和・和英中辞典電子ブック版(研究社)
EB Player(Sentius)



This page was created by Kazumi Hatasa .