第5回 インターネットの利用方法1

パデュー大学 外国語外国文学科 外国語教育メディアセンター長

畑佐一味


いよいよ今月から三回にわたってインターネットの利用方法を紹介します。この言葉を聞かずに一日を過ごすことができないこのごろですが、今回はまずインターネットとは何かを簡単に説明して、今話題のワールドワイドウェッブの日本語教育での利用方法(とその可能性)を紹介します。来月はその他のインターネットのサービスと接続方法を紹介します。

インターネットとは

まずインターネットという言葉の意味を正確に理解しておきましょう。この言葉は「世界中の何百万、何千万台というコンピュータがつながっているネットワーク」自体を指しています。ですから、「インターネットをする」というのは「インターネットを使って行われているいろいろなアクティビティー(サービス)に参加する」ということです。そして、それらのアクティビティーがこれから紹介するワールドワイドウェッブ(WWW)であったり、電子メールであったりするわけです。最近の新聞紙上などでは「インターネット=ワールドワイドウェッブ」という前提のもとでこの言葉が使われているように見受けられます。ワールドワイドウェッブはインターネット上で行なわれているアクティビティーの花形には間違いありませんが、言葉の使い方としては正しくありません。

ここ数年、インターネットは急速に大きくなりました。インターネットは元々米国が防衛上の理由で、有事に拠点が破壊されても情報伝達が妨げらるないようなシステムを構築するために作られたARPAnet(Advanced Research Project Agency)というネットワークが発展したものです。そのため、インターネット自体には中心になるようなものは存在せず、非常に分散型のネットワークシステムです。ですから、企業や個人がワールドワイドウェッブのようなアクティビティーに手軽に参加できるといったことが可能なのです。しかしその半面、例えば、ある政府が自国の社会倫理感に適しない情報を止めようとするといったような 情報の流れを質的あるいは量的に管理したり統制したりすることは、大変苦手です。インターネットはこのような歴史的な背景の中で、まず始めに米国の大学や研究機関で使われ、それが民間そして世界へと発展して現在に至っています。

以前「コンピュータはソフトがなければただの箱」という表現がありましたが、昨年からのインターネットブームともいえる現象はソフトウェアではなく「コンテンツ(情報の内容)」がその原動力になっていると言われています。つまり、「おもしろいテレビ番組が始まったから、テレビを買おう」という発想と同じと言えます。コンピュータを使って入手できるようになった仕事や趣味などもろもろの情報そのものの価値を人々が認めはじめたのです。こうなると、それが家庭用のパソコンという形をとるのか、またはパソコン機能を持ったテレビという形をとるのかはわかりませんが、いずれにせよインターネットが本格的に家庭に普及するのは時間の問題でしょう。

ワールドワイドウェッブ(WWW)

では、このインターネットブームの火つけ役になったワールドワイドウェッブ(以下WWWと書く)に話を進めましょう。WWWは一口に言って「ドラエモンのどこでもドア」のようなものです。(もちろん物理的にどこでも行ける漫画の世界とは違いますが)これは私が初めてWWWを使ったときに感じた印象ですが、同様のことを感じた方も多いことと思います。WWWのアクティビティーは世界中にあるWWWサーバーと呼ばれれる機械にアクセスし、どんな情報があるのか覗いてみるという行為(拾い読みという意味でブラウジングと呼ぶ)を中心に展開していきます。世界中のサーバーを次から次に飛び回るのでネットサーフィンと言うこともあります。そして、これがマウスをクリックするだけでできてしまうほど簡単なのです。では、どんなサーバーが存在しているかというと、それは大きな企業だったり、小さなお店だったり、大学や研究機関だったり、博物館や美術館だったり、または単純に個人だったりします。そして、その目的も様々です。WWWでは情報が文字だけに限らず、音声、静止画、それに動画も含まれていますから、とてもカラフルです。ですから、美術館が展示物をWWWサーバーを通して見せているというケースもあります。これらのサーバーから発信されている情報はインターネットにアクセスできさえすれば、世界中どこからでも(つまり、皆さんの家からでも)見ることができます。なんとなく「どこでもドア」のイメージがわいてきましたか。

ブラウジングをするにはブラウザ(browser)と呼ばれるソフトウェアが必要です。その代表的なものがモザイク(Mosaic)とネットスケープ(NetScape)という二つのソフトウェアです。本稿では日本語への対応が早かったネットスケープを使うことにしました。

各WWWサーバーの表紙をホームページと呼びます。図1は読売新聞のwwwサーバーのホームページです。



          図1 読売新聞ホームページ

世界中のwwwサーバーはURL(Universal Resource Locater,ユーアールエルと読む)とよばれるアドレスで管理されています。例えば、読売新聞のホームページのURLはhttp://www.yomiuri.co.jp/です。ですから、だれかからおもしろいホームページの話を聞いたら、「そのホームページのURLを教えてください」と聞いておけば後で見ることができるわけです。URLは必ずhttp://ではじまりますから、この部分は省略して覚えておいて構いません。

このほか大学、政府機関、企業から一個人に至るまでありとあらゆるホームページが毎日のように開設され、その数は増加の道をたどる一方です。そして、こうなった要因の一つにはインターネットが分散型のネットワークであり、情報の受信だけではなく、発信も簡単にできるようになっていることがあります。つまり、個人が気軽にテレビ局(情報発信源という意味で)を開設できてしまうような環境なのです。しかもそれが世界中に届いてしまうのです。また、ブラウザはWindows用、Macintosh用、UNIX用に同時開発されているので、コンピュータの種類にかかわらずWWWが使えます。そして、これもWWWがこのように急速に受けいられている理由の一つと言えます。

WWWは教育利用という観点から見ても大変魅力的です。インターネットへのアクセスさえあれば(つまり、電話回線があれば)、どんな僻地にいる子供でも都市部と同様の情報を得ることができ、また自分達の声を世界に向けて発信できるのです。ですから、WWWはとても外国語教育向きと言えます。

しかし、このように大きな可能性を持ったWWWの環境も問題がないわけではありません。むしろ、今までとは全く異なった問題が内在していると言えます。その中には、自由に情報が発信できるようになった結果から生じる言論・表現の自由の問題、国家間の倫理感の差に起因する問題さらにそれに伴う犯罪の可能性などがあげられます。これらは子供を持つ親や教育関係者にとっては特に頭の痛い問題になるでしょう。また、もともと営利利用を目的としていなかったインターネットが急速に商業化され、利用者が爆発的に増加しつつある現在、インターネットの有料化、使用目的や使用量の規制の必要性などといったネットワーク運営上の問題も出てきています。

日本語教育でのWWW利用

さて、それではWWWが日本語教育でどのように利用できるかを考えてみましょう。この分野は本当の意味で今までに誰もやったことがない分野なので皆が同じスタートラインに立っていると言えます。(もちろん、私も例外ではありません。)実践例も少ないですし、それに関する報告や文献もまだほとんど出ていないのが現在の状態です。ですから、個人個人の先生のイマジネーションによって可能性はまさに限りなくあります。従って、以下の説明はWWWに対する一個人の考え方が紹介されているという理解の下に読んでください。

WWW環境の教育利用をオンライン利用とオフライン利用の二つに大別して考えていきます。オンライン利用とは学習者が実際にブラウザを使って色々なサーバーを訪れ、そこから得られる情報を使って何らかの学習をし教師がその学習成果を評価するというタイプの利用方法を指します。例えば、海外の日本語学習者が日本のある地域紹介のサーバーにアクセスし、その町についての情報を集めるといったことができます。もう一歩進めば、その町に行って何かをしてくる(または、その予定を立てる)といったバーチャルトラベル(仮想旅行)もよく行われているようです。図2は祇園祭りのページです。このページからはお祭りのスケジュールや行き方、そしてホテルの情報などが入手できます。

          図2 祇園祭のページ

学習行動としては読みが中心になりますが、教師の創意工夫によって、ほかの技能のためのアクティビティーもいろいろ作れるでしょう。ここで一つ注意したいのは、WWWの空間はあまりにも大きくてきりがないので、こちらが狙った学習効果を一定時間内で達成するためには、教師が学習目的の明確な無駄のないアクティビティーをデザインする必要があります。個人の興味に添って自由に散策し、それをもとにして何かをするといったタイプのアクティビティーは学習者にたっぷり時間が与えられるまとめのプロジェクトのようにして実施するといいかもしれません。また、日本語で発信しているサーバーには日本語のページだけでなく英語でも同じページを持っているものが少なくありません。(例 新聞社のサーバー)このようなサーバーは英語が読める学習者の読みのアクティビティーに使うのには適しないと言えるでしょう。しかし、時事や文化的な情報を必要とするアクティビティーには大変役に立つでしょう。

オフライン利用は教師がブラウザをつかってWWWサーバーが発信している内容で使えそうなものを教材化して、授業で使うという利用の仕方です。例として、WWWサーバーで見つけた記事を使って、読み教材を作ってみます。まずネットスケープを使ってお目当てのサーバーを呼び出し、使いたい記事を見つけます。(図3)ここでは、阪神大震災関連のニュースにしました。

          図3読売新聞のニュースダイジェストのページ

マウスを使って画面上の記事をハイライトしてコピーして、ワープロソフトにペーストします。これで記事がWWWサーバーから自分のコンピュータに移されたことになります。ワープロソフトで余計なスペースやリターンを取り除き、文書を整えます。(図4)

          図4 ワープロソフトにコピーする

あとは設問をタイプすれば読み教材の出来上がりです。もし、未習の単語の意味を説明した単語リストを作る必要があるときは、第3回で紹介したフリーウェアのAutoGloss/Jが利用できます。AutoGloss/Jを開けて、記事をワープロソフトからAutoGloss/Jの画面左側のウィンドウにコピーします。そして、リストしたい単語をハイライトし、「Add to my list」ボタンをクリックするという作業を繰り返して、My listを作っていきます。(図4)以前のように、タイプする必要はありません。

          図5 AutoGloss/Jで単語リストを生成

My listができたら、「Create glossaly」ボタンをクリックして、リストを自動生成します。できあがったリストをワープロソフトにコピーして、仕上げれば作業は終了です。(図6)

          図6 リストをワープロソフトにコピーする

このようにすれば、WWWサーバーで発信されている情報を単時間で教材に加工できることがお分かりいただけると思います。

今回はWWWを紹介しました。インターネットに関する雑誌はすでに何冊も出版されいますから、一冊読んで見てください。中にはブラウザを始めインターネットを使うのに不可欠なソフトウェアが入ったCD-ROMが付録に付いているものもあります。また、パソコンショップでもWWWを体験させてくれるところがありますから、どこかでネットサーフィンをしてみてください。来月はインターネットを利用した電子メールやメーリングリストとその教育利用の方法を紹介します。



<今回使用したソフトウェア>
NetScape 2.0b   Netscape Communications Corporation
AutoGloss/J  (freeware by Peter Henstock & Kazumi Hatasa)

<参考文献>
一条真人 (1995) 『レッツInernet for Macintosh』 秀和システム
高木裕子・深田淳 (1995) 『日本語教育指導参考書21 視聴覚教育の基礎』 国立国語研究所
日経MAC, 赤塚一 (1995) 『Macで始めるインターネット』 日経BP出版センター 
深田淳 (1995) 「パソコン利用の現状と課題:日本語教育」『日本語学』14:8 明治書院
                         pp. 100-112



This page was created by Kazumi Hatasa .