第6回 インターネットの利用方法2

パデュー大学 外国語外国文学科 外国語教育メディアセンター長

畑佐一味


先月のWWWに引き続き今月はインターネットを利用した電子メールとその教育利用の方法についてお話しします。国外では少し前までは煩わしかった日本語電子メールもソフトの発展のおかげで簡単に出きるようになりました。つまり、海外の教師や学習者とも日本語でメールの交換ができるのです。教育利用の可能性も当然広がってきています。

電子メール

電子メールはコンピュータのネットワークを利用して、特定の人またはグループとメッセージの交換をすることを指します。インターネットを使えば、当然世界の至る所と連絡をとることができることになります。電子メールの基本は個人間のやり取りですが、メーリング・リストに参加することで同じ興味を持ったグループとも意見や情報の交換をすることができます。ここでいう興味とは趣味であるかもしれませんし、(日本語教育といった)職業的、学術的な興味かも知れません。

日本国内で育ったパソコン通信と違い、米国で育ったインターネットを使った電子メールはもともと英語が中心で、始めは日本語でのメールのやりとりが煩雑でした。それで、ローマ字を使う人が多かったのですが、現在はEudora/J(ユードラと読む)などいいソフトのおかげで、仮名漢字まじり文も自由に、しかも簡単に送れるようになっています。

では、電子メールの例を紹介しましょう。図1はEudora/Jで受け取った電子メールです。そして、図2はこれから出すメールを書いているところです。ここで使った例は月刊「日本語」の編集部と私の実際のやり取りです。

          図1 Eudora/Jで受け取った電子メール

          図2 Eudora/Jで電子メールを書く

メールを書くときはワープロソフトと同じ感覚でできます。図1のtoで始まる宛先部分を見てください。これは私宛なのでkazumi@sage.cc.purdue.eduというのは私のインターネット上でのアドレスになります。電子メールのアドレスは常に@(at, アットと読む)が途中にあり、前が個人の名前を表し、後はアカウント注1を持っているコンピュータのアドレスです。ですから、私のアドレスはsage.cc.purdue.eduという住所を持った機械を使っているkazumiさんという意味です。アドレスの最後のeduはeducationの省略で米国の教育機関を指します。その前のpurdueは大学の名前で、ccはcomputing center(大学の計算機センター), そしてsageは計算機センターが持っている大型コンピュータの名前です。日本のアドレスでは最後がac.jpだったり、go.jpだったりするものがよくありますが、これはそれぞれ日本の学術機関(academia Japan)と政府機関(government Japan)を表しています。

電子メールは遅くとも1、2時間で世界中に届きますから、遠くの人と連絡をとるのには最適です。また、メッセージを複数の人に同時に出すこともできます。さらにこの後で紹介するメーリング・リストに参加すると同じ興味を持った大勢の人達とディスカッションができます。折角ですから、本連載に対するご意見やご希望がありましたら、私のアドレス宛てにお送りください。

電子メールをはじめるためには

電子メールのやり取りをするには、まずインターネットに接続しているコンピュータにアカウントを取る必要があります。大学の場合は大学の計算機センターを通して行いますが、民間の場合は個人でインターネットプロバイダと呼ばれる会社と契約することでその会社のコンピュータ上にアカウントを作ります。契約するとプロバイダからインターネットでの名前とアドレスがもらえます。プロバイダに関する情報はインターネット関連の雑誌に山ほど載っていますから、そちらを参照してください。あと必要なのは第一回で簡単に紹介したモデム(modem)と呼ばれる機器と電子メール用のソフトウェアだけです。Eudora/Jは無料です。(インターネット雑誌の付録CD-ROMによく入っています。)モデムとコンピュータをつないで、電話線をモデムにつなけば準備完了です。注2モデムは種類がたくさんでていて、値段もまちまちですが、一番大切なのはスピードで、WWWもやることを考えると、できるだけ速いものを購入するのが得策です。現在、一般的に使われている一番速いスピードは28.8Kbと呼ばれます。スピードが同じなら基本的な性能は値段に関係ありません。用意ができたら、プロバイダーの指定した番号にモデムを使って電話をかけて、コンピュータをインターネットにつなげます。モデム使用中は話中と同じ状態になり、通常の通話料金がかかります。接続している時間によって、プロバイダーに支払う使用料が計算されます。また、プロバイダによっては定額制を採用しているところもあります。Eudora/Jを使うと電子メールのアクティビティーに必要な通話時間はとても短くてすみますが、WWWのようなアクティビティーは電話がかかりっぱなしの状態になるので、長電話をしているのと同じことになります。また、大手のプロバイダは主要都市に市内局番を持っていますが、住んでいる場所によって市外通話をしなければならないと電話代も高くつくことになります。

メーリング・リストに参加する

メーリング・リストは電子フォーラムとかListservとかDiscussion listなどいろいろな名前で呼ばれています。その目的は電子メールを利用して、ある共通の興味をもったグループのメンバー間での情報交換をすることです。メーリング・リストは、あるコンピュータが参加者の電子メールのアドレスのリストを管理し、フォーラム宛てに送られてきたメールを参加者全員に自動的に転送します。注3ですから、ある話題に関して質問があるときはメーリング・リスト宛てにその質問を送ると、世界中にいる参加者の誰かから答えが返ってくることになります。自分の回りに専門家がいないときには大変助かります。また、最新の情報もメーリング・リストをとおして入手することができます。 メーリング・リストへの参加はいたって簡単で、「subscribe XXXX Taro Yamada」(「XXXXリストにTaro Yamadaを追加してください」)という電子メールをリストを管理しているホストコンピュータに送るだけです。すると、その時からメーリング・リスト宛てのメールがすべてYamada Taroさんにも送られてくるようになります。メールが全然来ない日もあれば、たくさん来る日もあります。いずれにしても、自分の電子メールの郵便受けを常にチェックするように習慣付けないと郵便受けがいっぱいになってしまいます。

日本語教育関連では次のようなメーリング・リストが開設されて、意見や情報の交換が毎日活発に行われています。一つはJTIT-L(Japanese Teachers and Insructional Technology List)で、日本語教育とテクノロジーの話題が中心です。もう一つはJSLAR (Japanese Second Language Acquistion Research)と呼ばれ日本語の第二言語習得に関する話題を中心に展開しています。注4使用言語はどちらも英語です。参加者は米国をはじめ、日本、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス等世界中の日本語教育関係者達です。

          図3 JTIT-Lからの抜粋

また、日本語の学習者が日本語で意見交換をする場としてのメーリング・リスト、GAKUSEI-Lもできています。GAKUSEI-Lはレベルがいくつか設けられていて、学習者のレベルにによって参加するリストを選ぶことができます。初級用はローマ字、中上級用は仮名漢字文で行われています。

電子メールの教育利用

GAKUSEI-Lのような学習者用のメーリング・リストだけでなく、電子メールという媒体も日本語教育の中で取り入れられ始めています。電子メールのペンパルという意味で、「キーパル」という言葉が最近聞かれるようになりました。これは同世代の個人間又は学校間で行われているケースが多いようです。使用言語はいろいろな可能性が考えられます。米国の日本語学習者と(英語を習っている)日本人が意見交換するのであれば、日本語ー日本語、日本語ー英語、英語ー日本語、英語ー英語の四通りがあります。メッセージの内容、学習者のレベル、学習目的に応じて一番適した組み合わせを選択すればいいでしょう。JTIT-Lなどでも時々教師が自分の学生のパートナーを探しているという主旨のメッセージが掲載されます。電子メールを使った意見交換は、海外の学習者にとっては、生の声を聞く貴重な機会となりえます。自分の問い掛けに対して返答が日本語で返ってきたときなども、たとえ日本語のレベルが合っていなくても、「このメッセージは僕にきたのだから分かりたい」という動機づけが強く働きますから、教師はそのエネルギーを利用することができます。日本人が英語で書く場合は当然英作文の練習になるわけで、一石二鳥ということになります。 ただし、学習者が日本語をキーボードで入力すること自体の是非やその学習効果に関する研究が大変少ない現在、国内外での研究を活発に行う必要があります。注5

来月はインターネットを利用していろいろなプログラムをダウンロードする方法などを紹介します。



注1 アカウントは口座という意味ですが、ここではあるコンピュータに自分用に割り当てられたスペースを持っているということを指します。そして、そのスペースを使って電子メールを出したり、受け取ったりしています。

注2 ISDNと呼ばれるデジタル回線が急速に普及し始めました。これを使うと一本の電話回線でコンピュータと普通の電話が同時に使えるようになります。この場合は、モデムではなくターミナルアダプタと呼ばれる機器が必要です。インターネットを長時間使う場合は便利です。

注3 メーリング・リストの中にはモデレーター(moderator)と呼ばれる人が介入してリスト宛ての電子メールの流れを管理しているものもあります。大部分のリストは自動的に転送しますから、間違って出したメールも世界中のメンバーに届くことになります。

注4 JTIT-Lへの参加申込はlistserv@psuvm.psu.eduに送ります。JSLAR-Lはmailserv@oregon.uoregon.eduに、GAKUSEI-Lはlistproc@uhunix.uhcc.hawaii.edu宛てに参加申込を送ります。

注5 第一回でも簡単に触れましたが日本語はワープロの出現で手書き言語からキーボード言語に変化しました。そして、「ことえり」や「EgBridge」などのインプットメソッドと呼ばれるプログラムによってキーボード入力の効率が著しく改善されました。しかし、それと同時にキーボード入力でなければ考えられない変換ミスや間違いも出現し、読めるが書けない漢字の数が増えました。このようなキーボード入力の環境は日本語の読み書きができる日本人の大人を対象にして整えられてきたわけですから、日本語の習得の終わっていない日本人の子供や日本語の学習者にこの環境を当てはめようとしてもうまくいかない可能性があります。例えば、日本人の子供とキーボード入力の問題に関してはすでに文部省や国語教育審議会などで取り上げられています。これに対して、日本語学習者に関してはまだ大きく取り上げられえておず、これから考えていかなければならない問題です。現在使われているインプットメソッドはローマ字->かな->漢字というステップを踏みますから、発音をあやふやに覚えている日本語学習者には思い通りの言葉がタイプできません。ですから、中国人の学習者が漢字は知っているのに、ワープロでは入力できないことがあるという現場からの報告があるのもうなずけます。同時に、非漢字系の学習者は仮名ー漢字変換の段階で正しい漢字が選べない可能性があります。また、自分のローマ字の間違い等に気がつかなかったり、自分で書いたメッセージや作文が読めないという可能性もあります。しかし、日本語学習者のデータがない現在このような問題の可能性は単なる憶測にすぎません。手で書いたほうが速い日本語をキーボードを使って入力させるのなら、それがどんな教育効果をもたらすのかを知る必要があります。そのためには、日本語学習者がキーボードを使う際、どのような問題が存在するのかを研究する必要があります。


<参考文献>
高木裕子・深田淳 (1995) 『日本語教育指導参考書21 視聴覚教育の基礎』 国立国語研究所
The Japan Foundation Language Center (1995)  The Breeze.  No. 12

<今月紹介したプログラム>
Eudora/J 1.3.8.5 (フリーウェア) パデュー大学の日本語プロジェクトのWWWページ
         (http://www.sla.purdue.edu/fll/JapanProj/)から入手できます。



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