最終回 レーザーディスクとバーコードの利用

パデュー大学 外国語外国文学科 外国語教育メディアセンター長

畑佐一味


いよいよ最終回を迎えました。今月は日本ではカラオケで普及したレーザーディスクの利用方法について紹介します。でも、日本語の授業にカラオケを導入しようというわけではありません。(もっとも、それはそれで効果的な方法かもしれませんが。)

レーザーディスク

レーザーディスク(以下、LD)は30センチほどの円盤状のもので、レーザーディスクプレーヤー(以下、LDプレーヤー)を使うと収録されている動画や静止画をテレビで見ることができます。LDはCAVとCLVと呼ばれる2種類に大別されます。ただし、どのLDプレーヤーも両方のタイプのディスクを扱うことができます。

CAVディスク(Constant Angular Verocityの略)では片面30分の動画を保存することができます。動画は一秒間に30枚の静止画から構成されていますから、CAVディスクの片面には5,4000枚の静止画が入っていることになります。そして、一つ一つの静止画に1から5,4000までのフレーム番号がついていて、どの静止画でもフレーム番号を指定すれば瞬時に呼び出すことができます。ですから、美術品の写真を紹介するLDを作ろうとしたときは、5,4000点紹介することができる計算になります。動画は高画質のパラパラ漫画(アニメ)と考えれば分かりやすいでしょう。

これに対し、CLVディスク(Constant Linear Verocityの略)では片面60分の動画を収録することができます。しかし、CAVディスクのようにフレーム番号で一つ一つの静止画を呼び出すことは一部の上位機種を使わないとできません。市販されている劇場用映画のLDはほとんどCLVディスクを使用しています。

本稿は教室授業の中で使われているビデオ教材のLD版を使ってどのような効用が得られるかについて紹介するのが目的です。わざわざLDを使おうとするためには当然VHSテープではできなかったことができるようにならなくてはなりません。ここではLD(CAV)版が出版されている教材の中から国際交流基金の「ヤンさんと日本の人々」を例にとって紹介していきます。

バーコード

LDの最大の特長はどの部分でも瞬時に呼び出せることと静止画がきれいなことにあります。LDプレーヤーにはVTRと同様、リモコンが付属していて再生、早送りなどの基本機能を始め、フレーム番号を入力して頭出しをすることなどができます。しかし、これを教師が授業中にいちいちしていたのではVTRのリモコンを使うのとあまり変わりありません。それに、時間の節約にもつながりません。その解決策として注目できるのがバーコードリーダーと呼ばれる附属品です。バーコードリーダーは太いペンのような形をしていてバーコードの上をなぞることで情報を読み取り、それをLDプレーヤーに送ります。注1バーコードには、例えば、「フレーム番号5321を呼び出し、そこからフレーム番号6780まで再生し、停止しなさい。」といった命令が埋め込まれています。さらに「音を消して」とか「ビデオを消して」といったような情報を付け加えることもできます。

「ヤンさん」のLD版にはバーコードシートが付属していて、すぐ使えるようになっています。しかし付属のバーコードシートは話の筋の上でのシーンが基本になっていて、LDの魅力を引き出すには十分とは言えません。せっかくいろいろなことができるLDですから、もう少し何かやってみようという発想で、パデュー大学でバーコードを自作してみました。図1はその一部です。注2

          図1 バーコード付きのシナリオの一部

まず、第14課を例にとり、せりふ一つ一つの始めと終りのフレーム番号を抽出し、バーコードを作り(作り方は後で説明する)、それをグラフィックスと同じようにワープロ文書化したシナリオのせりふの横にペーストしていきました。それぞれのせりふに少し違う命令が入っているバーコードを二つ作りました。はじめのほうは「せりふの始めに行って待て」という命令で、そこで教師が(バーコードリーダーの)プレーボタンを押すと再生が始まります。二つ目のほうには「せりふを再生して停止せよ」という命令が入っています。従って、教師が「では、〜からもう一度見てみましょう」という時ははじめのバーコードを使い、あるせりふだけを繰り返したいときは二つ目のバーコードが便利でしょう。いずれの場合も教師はリモコンのボタンをいくつも押すという操作から解放されます。そして、テレビの画面をみながら少し進めたり戻したりする必要もなくなります。注3 さらに、バーコードを使うと物語の展開とは全く関係ない使い方も出来るようになります。今回のプロジェクトでは、シナリオにバーコードを付けるだけでなく、下のような四種類の場面集をバーコード付きで作成しました。

  1. 場面(言語機能) あやまる ほめる おこる 礼を言う 許可を求める 等
  2. 定型表現 おはようございます ありがとうございます いってきます お元気で すみません ごちそうさまでした ちょっと 等
  3. 動作・行為(言葉をあまり伴わない)  手を振る 頭を下げる 指をさす 足を組む 肩をすくめる おこる 喜ぶ おどろく ほっとする 等
  4. 事物紹介 駅の改札口 ホーム キヨスク 台所 風呂 等

          図2 定型表現「すみません」の部分

図2は定型表現のリストの一部です。「すみません」のような表現は場面によって意味が変わりますし、言い方も変わるので学習者には捉えにくい表現ですが、上のようにすると対比が容易にできます。この例で使ったLDの片面には第14課、第15課、第16課の三つが収録されていますから、この三つの課の中で使用されている「すみません」ならすべて瞬時に呼び出すことができます。注4動作・行為や事物紹介の場面集は、非言語行動や文化に焦点を当てた授業をする場合に利用できます。つまりバーコードを使うと、LDは本来のレベル設定や目的に関係なく多角的な使い方ができるようになるわけです。

バーコードを作る

ではバーコードの作り方を紹介しましょう。ここではパイオニア社がLDプレーヤーと一緒に販売しているLD Bar'n Coder 3.0というソフトを使用しました。バーコード作成の第一歩はバーコード化したい部分の始めと終りのフレーム番号を見つけることです。これは画面にフレーム番号を表示した状態で、リモコンを使って早送りしたりまき戻したりして決めます。めんどうな作業ですが、LDはフレーム一つ一つを進めたり戻したりできるのでビデオテープに比べはるかに楽です。しかし、数が増えれば、ある程度時間がかかるのは事実です。番号が決まったら、LD Bar'n Coder 3.0を使ってバーコードを作ります。(図3)次に、出来たバーコードをグラフィックスとしてコピーして、ワープロソフトの文書にペーストします。この作業の繰り返して、最後にレーザープリンタで印刷すれば出来上がりです。バーコードはコピーしても問題ありませんし、ある程度縮小することも可能です。

          図3 LD Bar'n Coder 3.0でバーコードを作る

マルチメディアの技術革新が毎日のように報告されている状況の中で、LDという媒体がすでに過去の物になっていないかという疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。確かにこれからデジタルビデオディスク(DVD)のような新しい技術がどんどん出てくることに間違いありません。その中で、LDが生き残るのか、または、LPレコードのように事実上絶滅してしまうのかは今のところなんとも言えません。ただし、どんなに新しい機械が出現しようとも使うのは教師や学生です。私達は常に機械が自分達の有利になるかを見極め、もし使うならあくまで自分達の使いやすい方法で使っていこうとする姿勢を持っている必要があります。そうしないと、技術革新の波にのみこまれて振り回されてしまうことになります。今回LDとバーコードを紹介することにした理由のひとつにはそんな意味での問題提起があります。バーコードでできるようになることは、明らかにVTRを超えています。ですから、これから出てくる他の機械や媒体でもできなくては役に立ちません。(もちろん、バーコードというものは使わないかも知れませんが)機械に合わせてボタンをいくつも押すという行為から解放され、操作が簡単になり、その分授業が効果的かつ効率的に行えるようになることが重要なのです。

連載を終了するにあたり

八回の連載でしたが、これまでを少し振り返ってみてください。半年ほど前の自分と今の自分の間に少しは違いが感じられるでしょうか?以前に比べコンピュータを使う時間が増えたでしょうか?また、コンピュータを使ってやっていることの種類が増えたでしょうか?「はい」と答えていただければ、連載は成功したと言えます。しかし、今になっても「これからやってみようと思います」または「関心はあります」という殻から脱出していない方は、一刻も早く脱出して、とにかく使い始めてみてください。

これからも新しいテクノロジーで日本語教育に役に立ちそうなものがあったら、適宜紹介していきたいと思います。御愛読ありがとうございました。



注1 バーコードリーダーには広口型のものもあります。このタイプはバーコードの上にあてるだけで、全体を読み取ることができます。

注2 このプロジェクトは国際交流基金の許可の下でパデュー大学とシンシナティ大学からの研究助成金で行われました。バーコードの作成は大学院生の出口香に担当してもらいました。尚、このプロジェクトとは別に氏家研一氏(ワシントン・リー大学)も「ヤンさん」を基にした場面集のバーコードを同基金の援助をうけて作成されました。配付方法については現在交流基金と検討中です。

注3 LDはもともとLDプレーヤーとコンピュータを接続して、コンピュータからLDプレーヤーをコントロールして学習を進めていくという相互対話型ビデオ(Interactive Video)という形で語学教育に導入されました。日本語では「となりのトトロ」や「男はつらいよ」などを使った実践例が発表されています。

注4 CAV型のLDは片面30分ですから、「ヤンさん」の場合、平均3課ずつ収められています。


<今回紹介したソフトウェア>
LD Bar'n Coder 3.0 (バーコード作成ツール)James Paul.   HyperPress Publishing Company.

<参考文献>
畑佐一味・出口香 (近刊) 「レーザーディスク版ビデオ教材でのバーコードの利用方法」バデュー大学外国語・外国文学科テクニカルレポート#2


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